【第8回】医師の働き方改革とは?クリニックの医院長・事務長が押さえるべき労働時間管理と医療DX
- Yuki

- 5月29日
- 読了時間: 6分

医療界の大きな転換期として連日ニュースでも取り上げられていた「医師の働き方改革」。 2024年4月から時間外労働の上限規制が本格的にスタートし、すでに現場で様々な対応に追われている医療機関も多いかと思います。
「うちは勤務医の少ない小さなクリニックだから、大病院の話でしょ?」 「院長である自分自身が長時間働いているだけだから関係ないよね」
……実は、これが一番の盲点です。医師の働き方改革は、すべての医療機関、そしてクリニックの経営やバックオフィス実務に直結する重要テーマです。
今回は、クリニックが直面する具体的な影響と、今すぐ取り組むべき「業務の効率化・仕組み化」について解説します。
なぜクリニックにも関係がある?押さえるべき「2つの理由」
「上限規制」という言葉だけを見ると、過重労働が問題視される大病院だけの制度に見えますが、クリニックの経営者が当事者となる理由は主に以下の2つです。
1. アルバイト(非常勤)医師の労働時間管理義務
クリニックの外来や当直を支えてくれている非常勤の先生(大学病院などからの派遣医師)がいらっしゃる場合、その先生が「自院で何時間働いたか」を正確に把握する義務があります。 他院(本職の病院など)での労働時間と合算して上限を超えないよう、通算の労働時間を管理・申告し合わなければならないため、どんぶり勘定の勤怠管理は許されなくなっています。
2. 「医療事務」や「看護師」の働き方改革への連動
医師の時間を削減しようとすると、そのしわ寄せが周囲のコメディカル(看護師や医療事務など)に行きがちです。しかし、医療業界全体の人手不足が進むなかで、スタッフの労働時間が伸びてしまえば離職につながります。 医師だけでなく、「クリニック全体の業務効率化」をセットで進める必要があります。
現場を回すための鍵:「タスク・シフト(シェア)」とは?
医師の労働時間を減らしつつ、診療の質を落とさないための最大の具体策が「タスク・シフト(業務の移管)」や「タスク・シェア(業務の共同化)」です。
これは、これまで医師が当たり前にやっていた「診療以外の業務」を、専門スタッフに切り出していく取り組みです。
医療クラーク(医師事務作業補助者)の活用: 電子カルテの代行入力、紹介状(診療情報提供書)の下書き、診断書などの書類作成をクラークに任せることで、医師がカルテと向き合う時間を劇的に減らします。
看護師や医療事務への権限委譲: 事前の問診や、患者さんへの一般的な説明、検査の予約手続きなどをルーティン化し、医師でなくてもできる仕組みを作ります。
働き方改革を支える「医療DX」の武器
タスク・シフトを形だけに終わらせず、バックオフィス全体の負担を減らすためには、これまでご紹介してきた「医療DX」のツールをフル活用することが不可欠です。
オンライン問診・予約システム: 患者さんが来院する前にスマホで問診を入力してもらうことで、受付の入力手間を減らし、医師が診察前に病状を把握できるようにします。
電子カルテの音声入力やテンプレート化: カルテの記載時間を短縮し、診察後の書類業務をその場で終わらせる仕組みを作ります。
勤怠管理システムのクラウド化: 非常勤医師を含めた労働時間をリアルタイムで可視化し、適切な労務管理の「証拠(台帳)」を自動で残せるようにします。
医院長・事務長が「今すぐ」整えるべきバックオフィス実務
働き方改革をクリニックの経営リスクにしないために、事務長を中心に以下の3点を点検・整備しましょう。
① 処遇改善・賃上げに関する「証憑(しょうひょう)管理」
スタッフのモチベーション向上や採用力強化のために、診療報酬の「ベースアップ評価料」などを算定して賃上げを行うケースが増えています。 算定要件を満たしていることを示すため、賃金台帳、就業規則の改定履歴、該当する手当の支給実績などの証憑(証拠書類)をいつでも厚生局の調査に出せるよう整理しておきましょう。
② 業務の棚卸しと「職員研修記録」の作成
タスク・シフトを進めるにあたり、「どの業務を誰に移管するか」のルールを院内で明確にし、スタッフへの研修を行いましょう。施設基準の維持や医療安全の観点からも、「いつ、誰に、何の業務移行トレーニングを行ったか」の研修台帳(記録)を残すことが必須です。
③ 自社ウェブサイト(HP)への体制掲載
働き方改革や医療DX、適切な施設基準の算定を行っている旨を、自院のホームページ上で正しくディスクローズ(情報公開)しているか点検してください。最新の診療報酬改定では、ウェブサイトへの掲載が必須要件となるケースが非常に多くなっています。
まとめ:働き方改革は「選ばれるクリニック」になるためのチャンス
医師の働き方改革やそれに伴う労務管理は、一見すると「経営を縛る面倒なルール」に思えるかもしれません。
しかし本質は違います。効率的な仕組み(医療DX)を取り入れ、スタッフ全員が疲弊せずに働ける環境を作ることは、「優秀な医師やスタッフから選ばれ、結果として患者さんにより質の高い医療を還元できる強いクリニック」へと生まれ変わる絶好のチャンスです。
全8回にわたり、医療DX、診療報酬改定、セキュリティ、そして働き方改革と、クリニックが直面する政策の潮流をお伝えしてきました。 これらはすべて繋がっています。バラバラの負担として捉えるのではなく、一貫した「バックオフィスの仕組み化」として、一歩ずつクリニックの土台を整えていきましょう。
💡 医院長・事務長向けFAQ
Q. 院長(開設者)自身の労働時間にも法律上の上限規制は適用されますか? A. 管理職や個人事業主としての院長自身には、勤務医のような法律上の「時間外労働の絶対的上限(年960時間など)」が直接適用されるわけではありません。しかし、院長の健康を害して診療がストップすれば経営は破綻します。院長自身の負担を減らすためにもタスク・シフトの仕組み化は必要です。
Q. 非常勤の先生の労働時間は、自己申告ベースで構いませんか? A. トラブルを防ぐためにも、タイムカードやクラウド型の勤怠管理システムを使い、自院での正確な「客観的な労働時間」を記録として残しておくことを強くおすすめします。
Q. 365メディカルでは、働き方改革についてどのようなサポートができますか? A. クリニック内の業務の棚卸し、医療クラークやDXツールの導入に合わせた「タスク・シフトの運用設計」、ベースアップ評価料等の算定に伴う「証憑・賃金台帳管理のサポート」、ホームページでの適切な情報公開対応まで、事務長や院長の手が回りきらない『労務と運用の仕組み化』を伴走サポートいたします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。実際の労働時間管理、タスク・シフトの法的範囲、診療報酬(処遇改善)の算定にあたっては、必ず厚生労働省、労働基準監督署、地方厚生局等の最新のガイドラインや公式発表をご確認ください。




コメント