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病院・クリニックの脱炭素経営に新論点 牛肉・森林破壊・土地由来排出は医療機関にも関係するのか

  • 執筆者の写真: Yuki
    Yuki
  • 3月26日
  • 読了時間: 6分

更新日:3月26日

脱炭素やカーボンニュートラルという言葉を聞くと、多くの医療機関では、電気代、空調、照明、車両、廃棄物管理などをまず思い浮かべるのではないでしょうか。

たしかにそれらは重要です。ですが今、世界のサステナビリティ議論では、それだけでは足りなくなっています。


新たに注目されているのが、「土地の使われ方」と「サプライチェーン上流の排出」です。

つまり、病院やクリニックが直接排出していないものでも、給食、委託業務、調達資材、紙製品、建材、物流、原材料の背景にある土地利用や森林破壊が、将来的な経営リスクとして見られる時代に入りつつあります。


特に2026年は、牛肉生産と森林破壊の関係、そしてGHGプロトコルの土地セクター基準の改定が重なり、「見えない排出」が企業の評価に与える影響が一段と大きくなっています。

これは上場企業だけの話ではありません。今後は病院・クリニック・介護事業者なども、脱炭素経営やScope3対応の延長線上で、調達や証憑管理の重要性を問われる可能性があります。



牛肉生産はなぜ問題視されるのか 森林破壊とサプライチェーン排出の深い関係



近年、世界的に問題視されているのが、農畜産業による森林破壊です。

なかでも牛肉は、広大な放牧地の確保や飼料生産と結びつきやすく、森林転換の主要な要因として注目されています。


この論点が重要なのは、単に「牛肉は環境負荷が高い」という印象論ではなく、サプライチェーン上流で発生する土地利用変化が、企業の温室効果ガス排出量の考え方に直接影響し始めているからです。


たとえば、病院給食や委託給食を提供する事業者、食材卸、食品メーカーなどは、今後、原材料調達の透明性や説明責任を強く求められる可能性があります。

そしてその流れは、最終的には医療機関の調達方針や委託先管理にも波及していきます。


これまで医療機関の環境対応は、省エネや設備更新が中心でした。

しかしこれからは、「何を買うか」「どこから調達するか」「その背景を説明できるか」という視点も、サステナビリティ経営の一部になっていくでしょう。



GHGプロトコル改定で何が変わる? 土地利用変化の排出が20年続くというインパクト



今回の大きな転換点は、GHGプロトコルの土地セクターに関する新たな考え方です。

ここで注目すべきなのは、森林伐採などの土地利用変化に伴う排出を、その年だけの問題として処理しない点です。


新たな考え方では、土地利用変化に由来する排出が、長期間にわたって影響を及ぼすものとして捉えられます。

つまり、ある時点で森林が農地や牧草地に転換された場合、その影響は単年で終わるのではなく、長期的に排出責任として残り続けるという発想です。


この視点に立つと、牛肉のように森林破壊と強く結びつく商品は、単なる食材や商品ではなく、「長期的な炭素負債を伴う可能性のある調達対象」として見られやすくなります。


これは医療機関にとっても無視できない変化です。

病院やクリニックは、自院で森林を切り開くわけではありません。しかし、購入する食品や資材を通じて、間接的に土地由来排出とつながっています。

将来的にScope3やサステナビリティ情報開示の重要性が高まるほど、この間接的なつながりは経営課題として認識されやすくなります。



病院・クリニックのScope3対応で重要になる「調達管理」と「委託先の見える化」



医療機関におけるScope3対応というと、まだ一部の先進的な組織の話に感じるかもしれません。

しかし、実際には病院やクリニックほど、多様な外部委託と物品購入に支えられている業種は少なくありません。


給食、清掃、洗濯、物流、医療材料、紙製品、備品、建築・改修工事。

こうしたあらゆる取引の積み重ねが、間接排出や環境負荷の一部を構成しています。


そのため、今後の医療機関経営では、単に「いくらで買うか」だけではなく、次のような観点が重要になっていくと考えられます。


どの取引先から調達しているか

どのような原材料やサプライチェーンを持つか

委託先や納入業者の説明責任は十分か

必要な資料や証憑をいつでも確認できるか


これは環境分野に限った話ではありません。

医療安全、サイバーセキュリティ、補助金対応、認証取得、監査対応など、あらゆる場面で共通するのは、「必要な情報を整理し、示せるかどうか」です。


つまり、脱炭素対応の本質は、医療機関にとっても情報管理力と組織管理力に直結しているのです。



医療機関のサステナビリティ経営は「省エネ」だけでは不十分になる



これまで病院の環境対応は、LED化、省エネ設備、電力切り替え、空調更新など、比較的わかりやすい施策が中心でした。

もちろんそれらは今後も重要です。


ただし、サステナビリティ経営がさらに進むと、問われるのは設備だけではなく、調達、契約、文書管理、委託先評価、組織の説明責任へと広がっていきます。


たとえば、今後こんな問いが増えてくるかもしれません。


給食の調達方針はあるか

環境配慮型の購買基準はあるか

委託先の選定根拠を説明できるか

サプライチェーンに関する資料が整理されているか

環境や品質に関する証憑を一元管理できているか


こうした問いに即答できる組織は、これからの医療機関経営において強いはずです。

逆に、情報が各部署に散在し、担当者依存でしか管理できていない組織ほど、将来の制度変更や開示要請に追われやすくなります。



365メディカル視点で考える なぜ証憑管理と情報整理がますます重要なのか



365メディカルとしてこのテーマを見ると、重要なのは「牛肉か、それ以外か」という単純な話ではありません。

本質は、医療機関の経営が、これまで以上に情報の整理・蓄積・提示能力を求められる時代に入っていることです。


環境対応、補助金、認証、監査、業務効率化、サイバー対策。

これらは別々のテーマに見えて、実は共通しています。

それは、必要な情報や証憑を適切に管理し、必要なときにすぐ示せる体制があるかどうかです。


脱炭素やScope3への対応も、突き詰めれば同じです。

自院が何を調達し、どの委託先と契約し、どのような根拠資料を持っているのか。

それを整理できている医療機関ほど、制度変更にも、対外説明にも、経営改善にも強い。


医療機関のサステナビリティ経営とは、単に環境配慮を掲げることではなく、組織の情報管理基盤を強くすることでもあるのです。



これからの病院・クリニック経営で問われるのは「見えない排出」を見える化する力



牛肉生産と森林破壊の関係、そして土地利用変化の排出を長期で捉える新たな考え方は、企業活動の見方を大きく変えようとしています。

そしてこの変化は、医療機関にも無関係ではありません。


病院やクリニックが今すぐ森林破壊の会計処理を求められるわけではなくても、調達、委託、文書、証憑、サプライチェーンの管理体制が重要になる流れは、すでに始まっています。


これからの時代に必要なのは、目に見える電力使用量だけでなく、上流にある「見えない排出」や「見えないリスク」にも目を向けることです。

そしてその第一歩は、調達情報や委託先情報、関連資料をきちんと整理し、必要なときに説明できる状態をつくることではないでしょうか。


脱炭素経営、Scope3、サステナビリティ開示。

こうしたキーワードが医療分野でも現実味を増していく今、病院・クリニックに求められるのは、環境問題そのものへの理解だけではなく、それに対応できる情報管理力と経営基盤の整備です。


医療機関の信頼性は、診療の質だけでなく、こうした見えないリスクへの備えによっても、これからますます評価されていくはずです。


参考情報

Reuters, “Beef production drives 40% of agriculture-linked forest destruction, Brazil leads,” 2026年3月24日。 

GHG Protocol, “Land Sector and Removals Standard,” 2026年1月30日公表。

 
 
 

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