第1回光学印象150点は“スキャンの評価”じゃない:2026改定が求める工程安定とは
- Yuki

- 2月22日
- 読了時間: 6分

「口腔内スキャナ、結局“入れた者勝ち”なんでしょ?」
2026年(令和8年度)診療報酬改定の話題になると、現場ではこういう空気になりがちです。
でも、今回の改定を読み解くと、政府が評価したいのは“スキャナを持っていること”ではありません。
評価の中心はもっと地味で、もっと現実的です。
政府が診療報酬で買いに来ているのは、機械ではなく「補綴工程の安定(再現性)」。
そのための手段として、光学印象(口腔内スキャナ等による印象採得)が位置づけられ、点数整理が行われています。(mhlw.go.jp)
この記事では、第1回として、光学印象がなぜ評価されるのか、そして「スキャンしたのに回らない医院」がどこで詰まるのかを、現場の言葉で深掘りします。
1. 光学印象は何を評価しているのか
2026改定では、光学印象(1歯につき)の点数が整理され、150点として示されています(旧点数の併記あり)。(mhlw.go.jp)
ここだけを見ると、「スキャンは儲かる」「デジタル優遇だ」と受け取られがちです。
でも、改定の趣きを一言で言うと、こうです。
“スキャン行為”を評価しているのではなく、
スキャンを使って補綴工程を安定させることを評価する。
中医協資料でも、光学印象の評価を見直す理由として「印象精度が良好であること」等を踏まえた整理が示され、さらにCAD/CAM冠製作時の光学印象に新たな評価を行う方向性が書かれています。(mhlw.go.jp)
つまり、政府側の視点は「デジタル化の推進」だけではなく、
やり直し(再印象・再製)を減らし、工程全体を安定させることにあります。
2. 「IOS入れたのに回らない」問題の正体
口腔内スキャナを導入した医院から、一番よく聞くのがこれです。
スキャンは速いけど、結局作り直しが減らない
技工所から差し戻しが増えた
「ここ欠けてます」「マージン見えません」が多い
咬合が合わず、調整が長引く
これ、スキャナが悪いわけではありません。
詰まっているのはほぼ例外なく、「運用の前提」です。
光学印象は、印象材のように“多少の粗さを材料で吸収する”世界ではなく、
データとして露骨に欠陥が出る世界です。
乾燥が甘い → 反射で欠損
圧排が甘い → マージンが埋もれる
取り回しが雑 → 連結部が欠ける
咬合採得が不安定 → 咬合が合わず調整地獄
つまり、光学印象の評価が上がったのは「機器の普及」を狙っているというより、
“工程品質を担保できる医院”を制度側が増やしたいという誘導に近い。
3. 光学印象の品質を落とす「3大要因」
ここから実務です。
光学印象で工程が不安定になる原因はたくさんありますが、実は大半が次の3つに収束します。
(1) 乾燥(=反射とマージン)
湿潤は、スキャンの敵です。
唾液だけでなく、歯肉溝浸出液や薄い水膜が残ると、表面が乱れて欠損が出ます。
結果、マージンの連続性が崩れ、設計段階で「ここが不明確」となり差し戻しが起きる。
乾燥は“丁寧にやったつもり”では不十分。
「ここまで乾かす」が院内で揃っているかが勝負です。
(2) マージン露出(=圧排と形成の連携)
光学印象で最も致命的なのは、マージンが見えないこと。
形成が良くても、圧排が弱いとマージンは消えます。
逆に圧排が良くても、形成が曖昧だとマージンは読み取れない。
つまり、光学印象は
形成(歯科医師)×圧排(術野管理)×スキャン(オペレーション)
のチーム戦になります。
(3) 咬合(=“スキャン品質”の盲点)
意外と見落とされるのがここです。
歯列の形は綺麗に取れているのに、装着してみると咬合が合わない。
調整が長引き、「結局いつも通りじゃん…」となる。
原因は、咬合採得の再現性が担保されていないこと。
咬合採得時の顎位がブレる
咬合の接触点が少なく、マッチングが不安定
患者が噛みしめてしまい、咬合高径が変わる
光学印象は「形が取れたら終わり」ではなく、
“噛み合わせを再現できて初めて工程が安定する”。
ここが理解できると、改善が一気に進みます。
4. やり直しが起きる“分岐点”マップ
現場で起きるトラブルを「どこで分岐したか」で見ると、改善ポイントが明確になります。
形成→圧排:マージンが露出していない
圧排→スキャン:乾燥不足で欠損が出る
スキャン→設計:連結部欠損、対合欠損で設計不能
設計→製作:マージン不明確で適合が出ない
製作→装着:咬合不一致で調整が増える
ここで大事なのは、
“スキャンが上手い人”がいるかどうかよりも、
分岐点を潰す院内ルールがあるかです。
5. 明日からできる「スキャン標準化ミニルール」5つ
最後に、導入直後の医院でもすぐ効く“最小の標準化”を置きます。
まずはこの5つを、院内で固定してください。
乾燥の基準を決める 「この状態ならOK」を写真付きで共有(術者の感覚差を潰す)
マージン確認のチェックポイントを固定 スキャン後に必ず「マージンの連続性」を1周チェックするルール
欠損を見つけたら、その場で“部分再スキャン” 後工程に回さない(差し戻しは時間コストが最大)
咬合採得は“条件を揃える” 顎位・噛み方・誘導の声かけをテンプレ化する
技工所へ渡す前に“3点だけ見る”最終確認 ①マージン ②連結部 ③対合・咬合 この3点がOKなら、差し戻し確率は一気に落ちます。
まとめ:光学印象150点は「工程が回る医院」を増やす制度誘導
2026改定で光学印象が整理されたのは、
「スキャンをしたら点数が取れる」からではありません。
スキャンを使って補綴工程を安定させ、やり直しを減らす医院を増やすためです。(mhlw.go.jp)
スキャナ導入は入口にすぎません。
本当に差が出るのは、運用を標準化して「再現性」を作れるかどうか。
次回予告(第2回)
次回は、今回の改定で最も“思想”が出ている
歯科技工士連携加算(対面60点/ICT80点)を深掘りします。
なぜICTのほうが評価が高いのか?
「連携したつもり」で終わらないために、何を残せばいいのか?
算定と品質を両立する“連携の型”はどう作るのか?
このあたりを、現場の運用テンプレまで落として解説します。(mhlw.go.jp)
※本記事に記載している制度・法令に関する内容は、一般社団法人365メディカルが公開情報や資料をもとに整理した参考情報です。
当法人は法務・労務の専門家ではなく、本記事は特定の法的解釈や実務対応を保証するものではありません。
実際の対応や判断にあたっては、最新の法令・公式資料をご確認のうえ、社会保険労務士・弁護士などの専門家へご相談ください。
本記事は、「制度をどう理解すれば現場で考えやすくなるか」という観点からまとめたものであり、実務検討のヒントとしてご活用いただければ幸いです。




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