郵便局が診療拠点に?
- Yuki

- 3月24日
- 読了時間: 9分

医療DXとオンライン診療が変える、これからの地域医療
地域医療はいま、大きな転換点を迎えています。
高齢化の進行、医師・看護師不足、医師の働き方改革、そして医療需要の地域偏在。こうした課題が重なる中、従来の「医療機関へ行って、対面で診てもらう」ことを前提にした仕組みだけでは、地域医療を支えきれない場面が増えています。東京財団の医療政策サロンでも、こうした状況を踏まえ、オンライン診療や医療DXを、地域医療を未来へつなぐための重要な手段として議論しています。
一方で、医療DXは単なるITツールの導入ではありません。
本質は、オンライン診療、電子カルテ情報共有サービス、標準型電子カルテ、全国医療情報プラットフォームなどを通じて、限られた医療資源をより有効に活用し、必要な医療を必要な人へ届ける仕組みを整えることにあります。厚生労働省も、2030年までに概ねすべての医療機関で必要な患者情報を共有できる環境を目指し、電子カルテの普及と共有サービスの整備を進めています。
なぜ今、医療DXとオンライン診療が地域医療で重要なのか
医療DXという言葉はよく聞かれるようになりましたが、現場感覚としては「具体的に何が変わるのか」が見えにくいかもしれません。
しかし、今起きている変化はかなり実務的です。
たとえば、地方や中山間地域では、通院に時間も移動負担もかかります。高齢者にとっては、その移動自体が受診のハードルになることもあります。また、夜間救急や在宅医療の現場では、限られた医療人材で地域を支え続けることが難しくなりつつあります。東京財団の議論でも、オンライン診療は「画面越しの診察」という限定的なものではなく、地域医療の持続可能性を支える新しい力として位置づけられています。
こうした背景から、オンライン診療の活用は、単なる利便性向上ではなく、地域医療を守るための現実的な選択肢になりつつあります。
郵便局がオンライン診療の拠点になるという発想
今回のテーマで特に注目されるのが、郵便局を活用したオンライン診療です。
東京財団の前編では、日本医師会の佐原博之氏が、石川県七尾市での実証について紹介しています。そこで採用されたのは、ICTに不慣れな高齢者でも利用しやすいよう、郵便局をオンライン診療の拠点にするという仕組みでした。佐原氏は、その理由として、郵便局が「どの地域にもある」「通信環境が整っている」「セキュリティ意識が高く金銭管理にも長けている」ことを挙げています。
2023年5月には、厚生労働省の通知により、へき地の郵便局などに医師の常駐しないオンライン診療所を設置することが認められ、同年11月から七尾市南大呑地区で実証が開始されました。患者は郵便局へ行き、スタッフの支援を受けながら受診し、服薬指導から会計まで現地で完了する流れです。受診者の中にはスマートフォンを十分使いこなせない高齢者もいましたが、スタッフのサポートにより無理なく利用でき、「通院時間の節約になる」といった評価が得られたと報告されています。
このモデルの大きな意味は、オンライン診療を「個人のデジタルスキル任せ」にしないことです。
地域にすでにある社会資本を活かし、高齢者でも使える医療アクセスの仕組みとして組み立てている点に、非常に大きな価値があります。
オンライン診療は「1対1」から「多職種×AI」へ進化している
オンライン診療というと、医師と患者が1対1で画面越しに話すイメージを持たれがちです。
しかし東京財団の議論では、その定義自体が変わりつつあることが示されています。
石川賀代氏は、これからのオンライン診療を、単なる1対1の診療ではなく、多職種とAIが協働する診療プラットフォームとして再設計すべきだと提起しています。背景には、少子高齢化と人材不足が進み、従来と同じ人数・同じ働き方では医療提供体制を維持しにくくなるという現実があります。
HITO病院の事例では、スマートフォンやTeams、スマートグラス、電子カルテ、AI活用などを組み合わせ、多職種が必要に応じて遠隔で連携できる体制づくりが進められています。報告では、STによる遠隔支援を導入した結果、誤嚥性肺炎による再入院率がゼロになった事例も紹介されました。さらに、音声入力やAIの活用により、記録業務や情報共有のあり方も大きく変わりつつあるとされています。
つまり医療DXは、医師の仕事を単純に置き換えるものではありません。
むしろ、医師、看護師、薬剤師、リハビリ職などの専門職が、より少ない負担で、より効果的に連携できる仕組みをつくる方向へ進んでいます。
国が進める医療DX政策の中心は「電子カルテの普及」と「情報共有」
現場の先進事例だけでなく、国の制度整備もかなり具体化しています。
厚生労働省は、電子カルテ情報共有サービスを通じて、診療情報提供書、健診結果、患者の6情報、患者サマリーなどを閲覧・共有できる仕組みを整えています。退院時サマリーは、現時点では診療情報提供書に添付する形で扱う方向です。
さらに、厚労省資料では、電子カルテ未導入の診療所や病院に対して、共有サービスや電子処方箋に対応できる標準型電子カルテの導入を進める方針が示されています。2026年夏までに、電子カルテと電子カルテ情報共有サービスの具体的な普及計画を策定する予定であり、診療所向けの**標準型電子カルテ(導入版)**は2026年度中の完成を目指しています。
この流れから見ても、医療DX 2026、標準型電子カルテ、電子カルテ情報共有サービスといったテーマは、今後さらに関心が高まる重要キーワードです。
数字で見る医療DXの効果
業務効率化は、すでに現場で結果が出始めている
医療DXは理念だけではなく、実際に現場の数字にも表れています。
東京財団の後編では、聖マリアンナ医科大学病院で、音声入力や病棟スマホ導入により、1人あたり月間残業が11時間削減されたことが紹介されています。また、「看護DX計画」を策定した4病院では、バイタル自動入力により日勤看護師1人あたり月間残業が12時間削減され、スマートグラス活用によって夜勤看護師の移動距離が平均1.7km削減されたと報告されています。さらに、電子予診の活用で、患者受付から会計終了までの時間が平均11分短縮した事例も紹介されています。
この数字が示しているのは、単に「便利になった」ということではありません。
これまで事務作業、移動、入力、確認に使われていた時間が減ることで、医療者が本来向き合うべき患者ケアへ時間を戻せる可能性があるということです。
秩父の夜間救急オンライン診療が示す、地域医療の現実解
東京財団の後編では、埼玉県秩父医療圏の事例も取り上げられています。ここでは、二次救急を担っていた3病院のうち1病院が離脱し、残る2病院で地域を支えなければならない状況となりました。その結果、2025年7月から夜間オンライン診療が導入されたと報告されています。年間運営費は約1,000万円で、東京都内の医師が毎日19時から翌8時までスマートフォンを使って内科・小児科診療を実施し、軽症例はオンラインで完結、重症例は二次救急へつなぐ仕組みです。
この事例は、オンライン診療が「新しい便利なサービス」ではなく、地域医療の崩壊を防ぐための実務的な対応策になり得ることを示しています。
ただし、オンライン診療は万能ではない
重要なのは、オンライン診療が対面診療を完全に置き換えるものではないという点です。
厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」では、オンライン診療を行う際、医師がその都度、医学的観点から実施の可否を判断し、不適切な場合には速やかに対面診療へ切り替えることが求められています。また、必要時に紹介先医療機関へつなげる情報共有体制も重要とされています。
東京財団の前編でも、佐原氏は、オンライン診療はあくまでかかりつけ医の対面診療の補完であるべきで、地域医療を弱める“いいとこ取り”ではなく、地域の医療提供体制を支える公益的取り組みとして進めるべきだと述べています。
この視点はとても重要です。
つまり、医療DXやオンライン診療の価値は、単独で完結することではなく、地域の医療機関、医師会、自治体、情報共有基盤とつながりながら機能することにあります。
365メディカルが考える、これからの医療DX支援
ここまで見てくると、医療DXの本質は、単にシステムを入れることではないと分かります。
本当に大切なのは、
必要な情報が共有できること
対面とオンラインが適切に組み合わされること
地域連携の中で運用できること
現場が無理なく使えること
です。
電子カルテ情報共有サービス、標準型電子カルテ、オンライン診療、地域医療連携。これらは別々のテーマのように見えて、実際にはすべてつながっています。これからの時代は、「情報を持っている」だけではなく、必要な情報を必要なときに使える状態にしておくことがますます重要になります。
365メディカルでは、こうした流れを踏まえ、医療機関の情報管理、文書整備、証憑管理、見える化支援などを通じて、医療DXを現場で活かすための土台づくりを支援していきます。
地域医療の持続、業務効率化、制度対応を見据えた体制整備に関心のある医療機関の皆さまは、ぜひご相談ください。
まとめ
医療DXは、地域で生き続けるための新しい医療インフラへ
郵便局を活用したオンライン診療、HITO病院の多職種×AIの取り組み、秩父の夜間救急オンライン診療、そして国が進める全国医療情報プラットフォームと標準型電子カルテ。これらを並べてみると、医療DXは単なるデジタル化ではなく、地域医療を持続させるための新しい社会インフラとして動き始めていることが分かります。
オンライン診療は、対面診療の代用品ではありません。
人口減少や人材不足が進む時代の中で、対面、訪問、遠隔、情報共有を組み合わせながら、地域で必要な医療を守るための現実的な仕組みです。
これからの地域医療で問われるのは、「新しい技術を知っているか」ではなく、その技術を地域の仕組みとしてどう活かすかです。
医療DXは、まさにそのための新しい力になろうとしています。
参考記事
東京財団政策研究所
「〖開催報告〗医療DXとオンライン診療<前編>医療政策サロン」
東京財団政策研究所
「〖開催報告〗医療DXとオンライン診療<後編>医療政策サロン」
厚生労働省
「電子カルテ情報共有サービス」
厚生労働省
「電子カルテシステムの普及に向けた取組について」
厚生労働省
「オンライン診療の適切な実施に関する指針」
厚生労働省
「郵便局におけるオンライン診療について」




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