top of page

医療現場と国の評価に大きな隔たり|診療報酬改定でも「7割のクリニックが減益」に陥る背景とは

執筆者の写真: Yuki
Yuki
5 時間前
読了時間: 6分

医療現場と国の評価に大きな隔たり|診療報酬改定でも「7割のクリニックが減益」に陥る背景とは


「診療所の経営は順調」という財務省の試算に対して、現場の医師からは「実感とあまりにかけ離れている」との落胆と危機感の声が上がっています。2026年度の診療報酬改定は、およそ30年ぶりの高水準な引き上げと評価されましたが、直近の調査では無床クリニックの約7割が経常減益という厳しい現実が浮き彫りになりました。


本記事では、全国保険医団体連合会(保団連)が実施したアンケート調査をもとに、制度上の評価と医療現場の実態に生じている大きなギャップの根底にある要因を紐解き、クリニックが取るべき具体的な対策について解説します。



■ 保団連の最新調査が示す医療現場の苦境


保団連が2026年10月に発表したアンケートの中間集計結果によると、改定後に経常収支が「減益」になったと回答した医療機関は全体で64%に達しました。特にベッドを持たない無床診療所に限ると、その割合は68%にまで跳ね上がっています。


多くの医療現場から「医療事務の採用や賃上げが難しく、他業種へ人材が流出してしまう」「収益が落ち込み、スタッフの処遇改善に手が回らない」といった切実な悲鳴が集まっています。


利益が落ち込んでいる最大の要因として、回答した医療機関の71%が「資材・物価の高騰を医療報酬で吸収できないこと」を挙げています。一般的企業であれば、原材料費やエネルギーコストの上昇分を販売価格へ転嫁できます。しかし、保険診療は国が定める「公定価格」であるため、各クリニックの判断で診察料を値上げすることはできません。改定率が全体でプラスであったとしても、それを上回るインフレが進めば、経営は急速に圧迫されます。



■ 「平均値の罠」がもたらした財務省と現場の認識ズレ


財務省は2025年の審議会において、クリニックの決算データから「経営状態はおおむね良好」と報告しました。この判断が基盤となり、改定財源の多くが病院へ優先配分され、診療所への十分な手当てが見送られた経緯があります。


なぜ、国側の評価と現場の実態にこれほどの食い違いが生じるのでしょうか。その背景には統計上の「平均値の罠」が存在します。


一部の大規模クリニックや自由診療を広範に展開する高収益院の数字が含まれると、全体の「平均値」は大きく押し上げられます。しかし、地域医療を支える一般的な診療所の多くは、より低い収益水準(最頻値)に位置しています。一部の偏ったデータによって平均値が引き上げられ、大多数のクリニックが抱える困窮が見えにくくなっていることが、現場から「実態を無視した不当な評価だ」と反発の声が上がる理由です。



■ 「増益」回答の裏に潜む身を削る経営努力と資材高騰の脅威


今回の調査で「増益」と回答した医療機関もわずかに存在しますが、その内情を分析すると、診療報酬改定の好影響というよりも、切実な合理化によるものであることが分かっています。


具体的には、以下のような「身を削る対応」で利益を絞り出しているケースが目立ちます。


・院長や役員報酬のカット、人件費の抑制

・診療日数の増加や夏期休暇等の削減

・不採算な診療科の閉鎖


地域に必要な医療機能を縮小したり、労働環境を犠牲にしたりして数字上の黒字を保っているのが実状であり、これを「経営良好」と捉えるのは非常に危険です。


また、ある医療機関には取引業者から「注射器や採血器具の価格を最大120%値上げする」といった通知が届くなど、医療消耗品の大幅な高騰が続いています。患者負担に転嫁できない公定価格の仕組みに加え、医療にかかる消費税の控除が難しい「損税構造」も相まって、クリニックの余力は限界に達しつつあります。余裕を失った医療体制は、将来的な感染症再拡大などの緊急時において、地域の安全網として機能しなくなる恐れがあります。



■ 厚労省の動向と保団連が求める緊急措置


厚労省の担当者も、物価高や賃上げに伴う医療機関の厳しい現状自体は認識していると述べています。厚労省は今後の経営調査結果を踏まえ、加算の見直しや手続きの簡素化などの対応を検討する構えです。


一方、保団連は危機的な状況を打開するため、以下のような要請を行っています。


・定期改定を待たない「期中改定」による基本診療料の即時大幅引き上げ

・基本診療料の改定が行われない場合、ベースアップ評価料の基準を大幅拡大

・ベースアップ評価料に係る申請・報告事務の簡略化

・賃上げと経営改善を直接支える財政支援の実施


回答した医師の8割以上が、安定した賃上げの手段として「基本診療料の底上げ」を求めています。



■ 今すぐクリニックで取り組むべき実務的アプローチ


制度の抜本的な見直しには時間がかかります。国や業界団体の議論の行方を注視しつつ、各クリニックにおいては自院でできる収支改善策を直ちに進めることが重要です。


1. ベースアップ評価料の算定・手続き状況の点検(返還リスクの回避)

2. 改定により新設・改定された各種加算の獲得漏れがないかの再確認

3. 施設基準のWEB掲示義務化など、算定要件を満たしているかのチェック

4. 直近の月次損益とキャッシュフローを精査し、押し下げ要因を特定する

5. 医療DXや業務自動化を導入し、バックオフィス業務の負担削減を図る



■ まとめ:実態に即した経営防衛とサポート体制の活用


「30年ぶりのプラス改定」という表面上の言葉とは裏腹に、多くの診療所が物価高と公定価格の挟み撃ちに遭い、厳しい経営を強いられています。


街の医療機関が地域住民の健康を守り続けるためには、実態に即した制度支援とともに、個々の院における確実な診療報酬の算定と業務効率化が不可欠です。


※当社(365メディカル)では、診療報酬改定への迅速な対応やベースアップ評価料の届出・運用支援、施設基準のWEB掲示対応、バックオフィスのDX化まで、クリニック経営をトータルでサポートしております。「改定後の収支の歪みを解消したい」「算定漏れをなくしたい」とお悩みの際はお気軽にお問い合わせください。



【用語解説】

・全国保険医団体連合会(保団連):保険診療を扱う医師・歯科医師らで構成される全国的な団体。

・無床診療所:入院用病床を持たないクリニック。

・公定価格:国が定める価格。保険診療の報酬は点数表で一元的に管理される。

・平均値と最頻値:平均値は全体の合計を件数で割った値。最頻値はデータの中で最も頻出する値。極端な高収益データがあると平均値は実態より高くなる。

・基本診療料:初診料や再診料など、医療行為の土台となる報酬。

・ベースアップ評価料:医療従事者の賃上げを後押しするために新設された評価枠。届出や管理が必要。



【免責事項】

本記事は公表された調査データや各種報道を基に、一般的な情報提供を目的として作成したものです。記載している調査結果は中間集計であり、全ての医療機関の実態を網羅・保証するものではありません。また、制度や診療報酬の解釈・手続きにつきましては、厚生労働省の最新通知や管轄の地方厚生局、専門の税理士・社会保険労務士等にご確認の上、ご判断ください。


 
 
 

コメント


bottom of page