2026年10月、支払基金が「DX審査支払機構」へ――日本の医療DXは「紙からデータ」へ本格移行する


病院やクリニックでは、いまも紙の問診票、FAX、紙の紹介状、紙カルテなどが数多く使われています。
患者が別の医療機関を受診すると、
「現在飲んでいる薬はありますか?」
「これまでどんな治療を受けましたか?」
「検査結果を持っていますか?」
と、同じ情報を何度も確認されることも珍しくありません。
しかし、日本の医療は今、この「医療情報が施設ごとに分断されている状態」から大きく変わろうとしています。
その重要な転換点の一つが、2026年10月1日です。
社会保険診療報酬支払基金は、
「医療情報基盤・診療報酬審査支払機構」
へ改組されます。
略称は、
「DX審査支払機構(HPDX)」
です。
これは単なる名称変更ではありません。
これまで診療報酬の審査・支払を中心に担ってきた組織が、今後はそれに加えて、日本の医療DXを実際に動かす中心的な実施主体の一つになることを意味します。
365メディカルでは、この変化を単なる行政組織の改編ではなく、
「医療機関経営そのものがデジタル前提へ移行していく象徴的な出来事」
として捉えています。
2026年10月1日、支払基金は「DX審査支払機構」へ
社会保険診療報酬支払基金は、2026年10月1日から、
医療情報基盤・診療報酬審査支払機構
へ名称を変更します。
2025年12月に成立した「医療法等の一部を改正する法律」によるもので、新しい法人は従来の診療報酬審査・支払業務に加えて、医療DXに関する施策を推進する中心的役割を担います。
さらに、厚生労働大臣が医療DXの総合的な方針となる「医療情報化推進方針」を定め、それを踏まえてDX審査支払機構が「中期計画」を策定する仕組みが導入されます。
毎年度の計画策定と実績評価についても国のガバナンスが強化されます。
つまり、
診療報酬を処理する組織
から、
診療報酬+医療情報基盤を支える組織
へと役割が大きく拡張されるわけです。
支払基金自身も、改組後について「診療報酬の審査支払業務に加え、医療DXに関する施策を推進するための中心的役割を担う法人」と説明しています。
なぜ「支払基金」が医療DXの中心になるのか
ここは非常に重要なポイントです。
医療DXというと、
「電子カルテを導入すること」
「紙をPDFにすること」
「オンライン診療を導入すること」
などをイメージするかもしれません。
しかし、国が進めている医療DXは、それよりはるかに大きな構想です。
厚生労働省は医療DXの柱として、
①全国医療情報プラットフォームの創設②電子カルテ情報の標準化等③診療報酬改定DX
を掲げています。
目指しているのは、単純なペーパーレス化ではありません。
これまで医療機関、薬局、保険者などに分散していた情報を、一定のルールのもとで電子化・標準化し、必要な場面で安全に活用できる医療インフラを構築することです。
診療報酬という「お金の流れ」と、資格情報・処方情報・診療情報などの「情報の流れ」。
これらをデジタル基盤上で結び付けていくことが、今後の医療DXの大きな方向性といえます。
2030年、電子カルテ普及率「約100%」という目標
そして、医療機関にとって特に重要なのが電子カルテです。
政府は、
2030年までに電子カルテ普及率約100%
という目標を掲げています。
2026年3月の厚生労働省資料でも、
「遅くとも2030年には概ねすべての医療機関において必要な患者の医療情報を共有するための電子カルテの導入を目指す」
という方向性が改めて示されています。
さらに、改正された地域医療介護総合確保法では、政府が2030年12月31日までに電子カルテ普及率約100%の達成を目指すことが制度上明確化されました。
これは非常に大きな変化です。
200床以上の病院は2028年度までに100%へ
2026年には、さらに目標が前倒しされました。
政府は、電子カルテ未導入の200床以上の病院のうち、療養病床等が中心の病院を除く対象について、2028年度までに電子カルテ普及率100%を目指す方針を示しています。
2030年まで待つのではありません。
大規模病院については、あと数年で電子カルテ導入を大きく進める方針です。
一方、2023年時点の電子カルテ導入率は、
一般病院:65.6%一般診療所:55.0%
でした。
特に電子カルテ未導入病院では、200床未満の病院が大きな割合を占めています。
つまり今後の医療DXでは、大病院だけではなく、
中小病院・クリニックをどのようにデジタル化するか
が極めて重要になります。
「電子カルテを入れる」だけでは終わらない
ここで医療機関が注意したいのが、
「電子カルテを導入すれば医療DX対応は完了する」わけではない
ということです。
国が目指しているのは、単に紙カルテを電子カルテに置き換えることではありません。
重要なのは、
「情報共有可能な電子カルテ」
です。
医療機関内部だけで情報を保存するのではなく、標準化されたデータとして必要な情報を安全に連携できる環境へ移行していくことが求められています。
そのため今後は、
電子カルテオンライン資格確認マイナ保険証電子処方箋電子カルテ情報共有サービス全国医療情報プラットフォーム
といった仕組みが、それぞれ独立して存在するのではなく、徐々につながっていくことになります。
電子カルテは「オンプレミス」から「クラウドネイティブ」へ
もう一つ重要な変化があります。
それが、
クラウドネイティブ型電子カルテへの移行
です。
これまで病院の情報システムは、院内にサーバーを設置する「オンプレミス型」が主流でした。
しかし、この方式では、
導入費用が高い更新費用が大きいシステムごとの仕様が異なるデータ連携が難しい専門人材が必要
といった問題があります。
そこで政府は、クラウドネイティブ型製品の普及を進め、大病院向け製品の開発支援も進める方針を示しています。
これは単なる「電子カルテのクラウド化」ではありません。
今後の医療情報システムそのものを、
「院内で閉じたシステム」から「安全につながるシステム」へ変える
という方向転換です。
マイナ保険証と電子処方箋で「薬の情報」がつながる
医療DXの効果がすでに現れ始めている分野の一つが、薬剤情報です。
電子処方箋に対応した医療機関・薬局では、患者本人の同意を前提として、電子処方箋管理サービスに登録された処方・調剤情報を確認できます。
これにより、
重複投薬併用禁忌薬剤情報の伝え漏れ
などを確認しやすくなります。
例えば患者自身が、
「薬の名前を覚えていない」
「お薬手帳を忘れた」
という場合でも、一定の条件下で過去の薬剤情報を確認できる環境が整いつつあります。
医療DXは、単なる事務効率化ではありません。
患者安全そのものに関係するインフラ整備
でもあるのです。
2025年から「院内処方」も電子処方箋基盤へ
さらに重要なのが院内処方です。
電子処方箋管理サービスは当初、主に院外処方を対象としていました。
しかし、2025年1月23日から院内処方情報登録機能のプレ運用が開始され、その後、院内処方情報も電子処方箋の仕組みの中で取り扱える環境整備が進められています。
これによって、
病院で処方された薬クリニックで処方された薬薬局で調剤された薬
といった情報を、より連続的に確認できる基盤が形成されていきます。
医療機関単位ではなく、
「患者単位で薬剤情報を見る」
という考え方への転換です。
次は「病院と薬局のやり取り」も電子化へ
そして2026年現在、次のテーマとして具体化してきているのが、
トレーシングレポート等の電子化
です。
トレーシングレポート(服薬情報提供書)は、薬局が患者の服薬状況や副作用、残薬などの情報を医療機関へ伝えるために使われます。
しかし現在も、紙やFAXなどアナログな運用が多く残っています。
厚生労働省は2026年7月の検討会で、トレーシングレポート等について、電子カルテ情報共有サービスの基盤を活用した電子的な連携の仕組みを検討し、
2030年を目途とした実装
を目指す方向性を示しました。
ここまで進むと、医療DXの全体像が見えてきます。
患者が受診する。
医師が診察する。
処方情報が登録される。
薬局が調剤する。
薬剤師が服薬状況を確認する。
必要な情報が再び医療機関へ返る。
つまり、
医療機関 → 患者 → 薬局 → 医療機関
という情報のループが、デジタル上で閉じる可能性が出てきたのです。
365メディカルが考える「医療DXの本質」
ここまで見ると、2026年10月のDX審査支払機構への改組は、単独の出来事ではないことが分かります。
電子カルテ約100%電子処方箋マイナ保険証電子カルテ情報共有サービス全国医療情報プラットフォーム診療報酬改定DXクラウドネイティブ化サイバーセキュリティ医療機関・薬局間の情報連携
これらは別々の政策ではありません。
すべてが、
「医療情報をデジタル化し、標準化し、安全につなぐ」
という一つの大きな方向へ進んでいます。
そのため365メディカルでは、医療DXを単なる「IT導入」と捉えるべきではないと考えています。
医療DXとは、
医療機関の業務・経営・制度対応・患者サービスを、データを中心に再設計すること
です。
医療機関が2030年に向けて準備すべき5つのこと
では、病院・クリニック・歯科医院・薬局などは何を準備すればよいのでしょうか。
365メディカルでは、大きく5つの視点が必要だと考えています。
1.電子カルテ・基幹システムの将来性を確認する
現在利用している電子カルテが、
標準化外部連携クラウド化電子処方箋電子カルテ情報共有サービス
などに今後どこまで対応できるのかを確認する必要があります。
2.オンライン資格確認・マイナ保険証を「使える状態」にする
設備を導入しているだけでは十分ではありません。
実際の受付・診療・薬剤確認などの業務フローの中で活用できているかが重要です。
3.電子処方箋への対応を検討する
薬剤情報共有は今後の医療情報連携における重要な基盤です。
未導入の医療機関では、自院の電子カルテ・レセコンとの関係を含めた導入計画を検討する必要があります。
4.サイバーセキュリティを経営課題として扱う
医療情報がつながれば、サイバー攻撃による影響も大きくなります。
政府も電子カルテ普及と並行して、医療機関のサイバーセキュリティ強化を重要政策として位置付けています。
セキュリティは、もはや「システム担当者だけの問題」ではありません。
5.施設基準・WEB掲示・制度対応もデジタル管理する
医療DXは診療情報だけではありません。
診療報酬改定への対応、施設基準、届出、院内掲示、WEB掲示、更新期限、証跡管理など、医療機関の管理業務そのものもデジタル化していく必要があります。
制度が複雑になるほど、
「人が覚えて管理する」仕組みから「システムで管理する」仕組みへ移行すること
が重要になります。
2026年は「2030年の話」ではなく「準備を始める年」
「電子カルテ100%は2030年だから、まだ4年ある」
そう考える医療機関もあるかもしれません。
しかし、200床以上の対象病院では2028年度という目標が示され、DX審査支払機構への改組は2026年10月1日です。
さらに、電子処方箋、電子カルテ情報共有、診療報酬改定DX、クラウドネイティブ化などは、すでに動き始めています。
したがって医療機関にとって重要なのは、
2030年になってから対応することではありません。
2026年から、
「現在のシステムで対応できるのか」
「次回更新時に何を選ぶべきか」
「どのデータをどこで管理するのか」
「誰が制度変更を管理するのか」
「セキュリティ対策は十分か」
を整理しておくことです。
まとめ|医療DXは「紙をなくすこと」ではなく「医療をつなぐこと」
2026年10月1日、社会保険診療報酬支払基金は「DX審査支払機構」へ改組されます。
しかし、この出来事の本質は組織名の変更ではありません。
日本の医療が、
紙中心
↓
データ中心
施設単位
↓
患者単位
個別システム
↓
情報連携
へと移行していく大きな転換点にあるということです。
電子カルテ、電子処方箋、マイナ保険証、全国医療情報プラットフォーム、施設基準管理、WEB掲示、サイバーセキュリティ。
これからの医療機関経営では、これらを別々の課題として考えるのではなく、
「医療DX」という一つの経営戦略として設計する視点
が必要になります。
2030年は、それほど遠い未来ではありません。
365メディカルでは、病院・クリニック・歯科医院・薬局などの医療機関に対して、医療DX、システム導入、施設基準・WEB掲示管理、業務改善などを含めた支援を行っています。
「自院では何から始めればよいのか分からない」
「現在のシステム構成で2030年に対応できるのか確認したい」
「電子カルテ更新を機に医療DX全体を見直したい」
といった場合は、個別のシステム導入から考えるのではなく、まず現在の業務・システム・制度対応を整理するところから始めることをおすすめします。
参考・参照
・社会保険診療報酬支払基金「令和8年10月より支払基金はDX審査支払機構になります」・厚生労働省「医療DXについて」・厚生労働省「医療DX令和ビジョン2030」関連資料・厚生労働省「電子処方箋」・厚生労働省「健康・医療・介護情報利活用検討会 医療等情報利活用WG」・厚生労働省「厚生科学審議会 医薬品医療機器制度部会」・デジタル庁「医療DXの取組について」
※本記事は2026年8月28日時点で公表されている政府・関係機関資料等をもとに、365メディカルが医療機関向けに整理したものです。制度・スケジュール・仕様等は今後変更される可能性があります。実際のシステム導入や制度対応にあたっては、厚生労働省等が公表する最新情報をご確認ください。




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