2033年に向けて拡大するSaMD市場|365メディカルが考える、これからの医療DXに求められる「現場実装力」


AI画像診断、治療用アプリ、遠隔患者モニタリング――。
これまで「医療機器」といえば、病院や診療所に設置された専用の装置をイメージするのが一般的でした。
しかし今、医療機器の価値そのものが「ハードウェア」から「ソフトウェア」へと広がり始めています。
そこで重要になるのが、
「SaMD(Software as a Medical Device)」
です。
スマートフォンやPC、クラウド上で動作するソフトウェアであっても、疾病の診断、治療、予防などを目的とし、一定の要件を満たすものは、医薬品医療機器等法上の「医療機器プログラム」として規制対象になり得ます。
つまり、「スマートフォンそのもの」が医療機器になるというより、
「スマートフォン上で動くソフトウェアが、医療機器として患者や医療従事者を支援する時代」
が到来しつつあるということです。
365メディカルでは、この変化を単なる「AI医療の進化」とは捉えていません。
SaMDの普及は、電子カルテ、医療データ連携、遠隔医療、ウェアラブル機器、AIなどを含む「医療DXの次のフェーズ」と考える必要があります。
1.日本のSaMD市場は2033年に向けて大きく拡大するとの予測
民間市場調査会社DataM Intelligenceが公表している市場予測によれば、日本のSoftware as a Medical Device(SaMD)市場は、2025年の2,293万米ドルから、2033年には9,620万米ドルへ拡大すると予測されています。
【日本SaMD市場の予測】
2025年:2,293万米ドル
↓
2033年:9,620万米ドル
予測CAGR(年平均成長率):17.3%(2026~2033年)
単純計算では、2025年から2033年までに約4.2倍の市場規模となります。
年平均成長率についても17.3%という高い水準が予測されており、SaMDが今後の医療DXを考えるうえで重要な市場の一つであることが分かります。
ただし、ここで注意が必要です。
この市場規模および成長率は、DataM Intelligenceによる民間市場調査・予測です。政府統計による確定値ではなく、市場の定義や調査手法によって他の調査会社の推計値とは異なる可能性があります。
一方で、日本政府自身もSaMDの実用化促進を政策課題として位置付けています。
厚生労働省、経済産業省、PMDAでは「プログラム医療機器実用化促進パッケージ戦略2」などを通じて、承認審査、相談体制、二段階承認、変更計画確認手続制度(IDATEN)、スタートアップ支援など、SaMD特有の課題を踏まえた環境整備が進められています。
2.そもそもSaMDとは何か?
SaMDは「Software as a Medical Device」の略称です。
日本では一般に「医療機器プログラム」あるいは「プログラム医療機器」と呼ばれています。
ここで重要なのは、
「医療や健康に関係するアプリが、すべてSaMDになるわけではない」
という点です。
例えば、単に歩数を表示するアプリや一般的な健康管理サービスと、疾病の診断・治療・予防などを目的として医療上の判断に利用されるプログラムでは、規制上の位置付けが異なります。
SaMDには、例えば次のような領域があります。
・CT、MRI、X線、内視鏡などを解析する診断支援プログラム
・疾病の治療に用いられる治療用アプリ
・患者データを解析して医療従事者の判断を支援するプログラム
・患者の状態を継続的にモニタリングするプログラム
SaMDの大きな特徴は、従来の医療機器のように専用の物理装置だけに価値が固定されないことです。
ソフトウェアであるため、設計次第ではクラウドを通じた配布や機能更新が可能であり、スマートフォンやPCなどのデジタル基盤との組み合わせも考えられます。
一方で、医療機器である以上、一般的なSaaSのように「開発してすぐ公開する」という発想だけでは成立しません。
有効性・安全性、品質管理、サイバーセキュリティ、薬事、変更管理などを含めたライフサイクル全体での設計が必要になります。
3.なぜAI診断・画像解析がSaMDを牽引するのか?
SaMD市場で特に注目されている領域の一つが「診断支援」です。
その代表例が、AIによる医用画像解析です。
CT、MRI、X線、内視鏡などの画像はデジタルデータとの親和性が高く、AIが特定の所見や関心領域を抽出することで、医師の読影や診断を支援できます。
これまで医師が大量の画像を確認していた業務の一部をAIが支援することで、
・見落としリスクの低減支援
・読影業務の効率化
・診断の標準化支援
・専門医不足への対応
などにつながる可能性があります。
4.国内でも実際の導入が進んでいる
国内でもAIを活用したSaMDの実用化が進んでいます。
2025年1月、ドクターネットは、韓国Monitor Corporationとの取り組みにより開発した「胸部CT画像解析AIエンジン DoctorNET MONCAD CTLN」について、日本国内で医療機器としての製造販売認証を取得し、サービス提供・販売を開始しました。
同プログラムは、胸部CT画像の肺野領域からAI技術を使って関心領域を抽出し、体積や最大径を測定することで、医師による読影を支援するものです。
ここで重要なのは、
「AIが医師に代わって診断する」
という単純な構図ではありません。
むしろ現在の医療現場で重要なのは、
「AIが医師の判断を支援し、診療ワークフロー全体を効率化する」
という考え方です。
SaMDの価値を考える際には、AI単体の性能だけではなく、「医師の診療をどれだけ支援できるのか」という視点が重要になります。
5.SaMDは「単体アプリ」から医療データエコシステムへ
今後のSaMD市場を考えるうえで、365メディカルが特に重要だと考えているのが、
「SaMDを単体アプリだけで考えない」
ということです。
日本では現在、医療DX政策として「全国医療情報プラットフォーム」の構築が進められています。
その一つである「電子カルテ情報共有サービス」では、全国の医療機関や薬局などで患者の電子カルテ情報を共有する仕組みが整備されており、診療情報提供書、健診結果、臨床情報、患者サマリーなどの電子的な共有が想定されています。
こうした医療情報基盤の整備が進めば、SaMDも「単独で動くアプリ」から、医療データの流れの一部へ組み込まれていく可能性があります。
例えば、
患者が自宅でウェアラブル端末などを使ってデータを取得する。
↓
クラウドへデータが送られる。
↓
SaMDやAIが解析する。
↓
異常の可能性がある患者を医療従事者へ提示する。
↓
医師が診療時の情報として利用する。
↓
その後も継続的に患者の状態をモニタリングする。
このように、「電子カルテ」「SaMD」「AI」「ウェアラブル」「クラウド」「患者データ」が、それぞれ独立したシステムではなく、一連の診療プロセスとしてつながっていく可能性があります。
ここで競争力を持つのは、単純に「高性能なAIを持っている会社」だけではありません。
「医療データの流れの中で、そのAIをどこに組み込めるか」
という視点が重要になります。
6.SaMDは「作る会社」だけの市場ではなくなる
SaMD産業が成熟してくると、事業機会はソフトウェアそのものを開発する会社だけに限定されなくなります。
2026年3月には富士通とDT-Axisが、研究開発機関、医療機器企業、製薬企業などに向け、SaMDの製品開発から承認申請、販売までを見据えた包括的な支援を行う協業を開始しています。
これは、SaMD市場の今後を考えるうえで非常に象徴的な動きです。
SaMDの事業化には、
・医学・臨床
・ソフトウェア開発
・薬事規制
・品質マネジメント
・情報セキュリティ
・医療機関への導入
・販売
・保険制度
・事業モデル
など、複数の専門領域が関係します。
つまり今後の市場では、
「優れたアルゴリズムを持つこと」と「実際の医療現場に届けられること」は別の能力
になります。
7.最大の壁はAI性能だけではない。「使われ続けるか」が重要
SaMDについて議論すると、どうしても「AIの精度」「アルゴリズム性能」「技術的な新規性」に注目が集まりがちです。
もちろん、医療機器として性能、安全性、有効性は極めて重要です。
しかし、実際の普及フェーズでは別の問題が発生します。
それが、
「医療現場で本当に使い続けてもらえるのか?」
という問題です。
8.患者側の課題:使えなければデジタル化の意味がない
高齢者を含む幅広い患者が利用する医療では、一般消費者向けITサービス以上にアクセシビリティが重要になります。
例えば、
・文字が小さい
・ログインが複雑
・毎回入力が必要
・通信設定が難しい
・操作方法が分からない
・エラーが起きたときに対処できない
こうした一見小さな障壁でも、継続利用率を低下させる原因になります。
高度なAIを搭載していても、患者が利用できなければ医療上の価値にはつながりません。
だからこそ、SaMDでは「技術力」と同時に「患者が使える設計」が重要になります。
9.医療機関側の課題:新しいシステムが仕事を増やしてはいけない
医療現場ではすでに、
・電子カルテ
・レセコン
・予約システム
・オンライン資格確認
・電子処方箋
・各種報告システム
など、多数のITシステムが利用されています。
そこへSaMDが追加される際に、
・さらに別のID・パスワードが必要
・別画面へログインしなければならない
・解析結果を電子カルテへ手入力する
・患者への説明工程が増える
・トラブル時の問い合わせ先が分からない
という状態になれば、どれだけ高性能なSaMDでも医療現場への定着は難しくなります。
365メディカルが医療DXの支援で重視しているのは、まさにこの部分です。
「導入できるシステム」と「医療現場で使い続けられるシステム」は違います。
10.365メディカルが考える、SaMD市場の「5つの勝ち筋」
今後の日本市場で重要になるのは、AI精度の競争だけではありません。
365メディカルでは、次の5つがSaMDの事業化・普及における重要な条件になると考えています。
勝ち筋① 臨床ワークフローへの統合
既存の電子カルテや画像システム、診療フローの中で自然に利用できる設計が重要です。
新しい業務を追加するのではなく、
「SaMDを導入することで既存業務をどれだけ減らせるか」
という視点がポイントになります。
勝ち筋② 医療従事者・患者双方のUI/UX
高度な機能を多数搭載すること以上に、
「迷わず使える」
「説明しなくても分かる」
「入力負担が少ない」
といったUI/UXが継続利用率を左右します。
特に高齢者の利用が多い日本の医療では、非常に重要なポイントです。
勝ち筋③ データ連携・相互運用性
SaMD単独ではなく、電子カルテ、医療情報基盤、IoT・ウェアラブル機器などとのデータ連携を前提に考える必要があります。
SaMDそのものの性能だけではなく、
「既存の医療システムとどれだけ自然につながるか」
が製品価値の一部になっていくでしょう。
勝ち筋④ 規制・セキュリティへの対応
医療機器である以上、一般的なアプリとは異なる管理が求められます。
薬事承認・認証だけではなく、
・アップデート管理
・品質管理
・個人情報保護
・医療情報セキュリティ
・サイバーセキュリティ
・変更管理
などを継続的に管理できる体制が重要です。
勝ち筋⑤ 導入後の運用支援
365メディカルが特に重要だと考えているポイントです。
SaMDを医療機関へ導入して、マニュアルを渡して終了では十分ではありません。
・初期設定
・医療従事者への教育
・院内運用の設計
・問い合わせ対応
・患者への説明
・利用状況の確認
・業務改善
まで含めた「導入後の運用支援」が必要になります。
SaMD市場が成熟するほど、製品そのものだけではなく「サービス設計」が差別化要因になる可能性があります。
11.「良いSaMDを作る」から「医療機関で機能する仕組みを作る」へ
日本のSaMD市場では、今後さまざまなプレイヤーが参入すると考えられます。
AIスタートアップや医療機器メーカーだけではありません。
IT企業、製薬会社、通信会社、電子カルテ事業者、医療機関、大学・研究機関などが、一つのエコシステムを形成していく可能性があります。
そのときに求められるのは、単一の技術だけではありません。
技術を医療機関へ届け、
院内業務に組み込み、
患者に利用してもらい、
データを安全に扱い、
継続的に運用する。
そこまでを一つの仕組みとして考える必要があります。
これは、従来型の「医療機器販売」とも、一般的な「SaaS販売」とも異なる市場です。
12.2033年、スマートフォンは「主治医」になるのか?
「スマートフォンが主治医になる」という表現は、少し刺激的かもしれません。
少なくとも、医師そのものをスマートフォンが置き換える未来を想定する必要はありません。
より現実的なのは、スマートフォンやクラウド上のソフトウェアが、
・日常の健康状態を記録する
・症状や検査データを解析する
・受診が必要な可能性を知らせる
・医師の診断を支援する
・治療後の状態を継続的にモニタリングする
といった複数の役割を担う未来です。
患者が病院を訪れた瞬間だけ医療が始まるのではなく、
「日常生活と医療の境界が徐々になくなっていく」
とも言えるでしょう。
SaMDは、その変化を実現する重要な技術の一つです。
13.365メディカルの視点:医療DXの本質は「システム導入」ではない
365メディカルでは、医療DXを単なるシステム導入とは考えていません。
電子カルテ、AI、SaMD、医療データ連携など、どれだけ優れたテクノロジーを導入しても、現場の業務が複雑になり、管理負担が増えればDXは成功しません。
重要なのは、
・何をデジタル化するのか
・どの業務を減らすのか
・どのシステム同士を連携するのか
・誰が運用するのか
・制度改定後も継続できるのか
までを含めて設計することです。
SaMD市場が今後拡大するほど、「作れる会社」以上に「医療現場へ実装できる会社」の重要性が高まっていく可能性があります。
2033年までのSaMD市場の成長を考えるうえで、本当の競争はAIモデルの精度だけではありません。
「医療現場で使われ続ける仕組み」を誰が構築できるか。
ここに、日本のSaMD市場における大きな勝ち筋があるのではないでしょうか。
365メディカルは、医療DXを「現場で運用できる仕組み」から考えます
365メディカルでは、医療機関向けシステム開発、医療DX、WEB掲示・コンプライアンス管理、MSO支援などを通じて、医療制度と現場業務の両面からデジタル化を支援しています。
AIやSaMDを含む新しい医療テクノロジーについても、「導入すること」ではなく「実際の医療現場で機能させること」を起点に考えることが重要です。
引用・参照
1.DataM Intelligence「Japan Software as a Medical Device Market Size, Share Analysis, Growth Insights and Forecast 2026-2033」日本SaMD市場について、2025年2,293万米ドル、2033年9,620万米ドル、2026~2033年CAGR17.3%と予測。
2.厚生労働省・経済産業省「プログラム医療機器等実用化促進パッケージ戦略2」SaMDに係る承認審査、二段階承認、IDATEN、開発支援等について整理。
3.独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)「医療機器プログラム(SaMD)の審査ポイント」プログラム医療機器の審査、認証基準、開発・承認申請等に関する情報。
4.厚生労働省「医療DXについて」全国医療情報プラットフォーム、電子カルテ情報共有サービス、標準型電子カルテ、電子処方箋等の医療DX施策。
5.厚生労働省「電子カルテ情報共有サービス」全国の医療機関・薬局等で電子カルテ情報を共有する仕組みおよび共有対象となる情報等。
6.厚生労働省「健康・医療・介護情報利活用検討会 医療等情報利活用ワーキンググループ」各回資料。
7.株式会社ドクターネット「胸部CT画像の関心領域を抽出する読影支援AIエンジンをリリース」2025年1月17日。
8.富士通株式会社・DT-Axis株式会社「富士通とDT-Axis、デジタルヘルスの発展を目指し、プログラム医療機器(SaMD)開発支援における協業を開始」2026年3月9日。
※市場規模に関する数値は民間調査会社による市場予測であり、公的統計ではありません。掲載情報は2026年9月時点で確認可能な資料を基に整理しています。
用語集
SaMD(Software as a Medical Device)
疾病の診断、治療、予防など医療目的で使用され、医療機器として規制対象となるソフトウェア。日本では「医療機器プログラム」「プログラム医療機器」などと呼ばれます。
医療機器プログラム
医薬品医療機器等法上の医療機器に該当するプログラム。すべての健康アプリや医療関連ソフトが該当するわけではなく、使用目的やリスクなどに基づいて判断されます。
AI画像診断支援
CT、MRI、X線、内視鏡などの医用画像をAIで解析し、病変候補や関心領域などを提示して医師の診断・読影を支援する技術です。
DTx(Digital Therapeutics)
デジタル技術やソフトウェアを用いて、疾患の治療や治療介入を行う「デジタル治療」。SaMDとして規制対象となるものがあります。
全国医療情報プラットフォーム
医療・健康・介護等の情報を必要な主体間で安全に共有・活用するため、国が整備を進めている情報基盤の構想です。
電子カルテ情報共有サービス
全国医療情報プラットフォームを構成する仕組みの一つ。医療機関や薬局などで診療情報提供書、健診結果、臨床情報などを電子的に共有するためのサービスです。
PMDA
独立行政法人医薬品医療機器総合機構。医薬品・医療機器等の承認審査、安全対策、健康被害救済などを担います。
IDATEN
医療機器の「変更計画確認手続制度」。製品の変更・改良が行われるSaMDなどの特性を踏まえた制度です。
CAGR
Compound Annual Growth Rateの略。一定期間における市場規模などの年平均成長率を示す指標です。
UI/UX
UIはユーザーが操作する画面やインターフェース、UXは製品やサービスを利用して得られる一連の体験を意味します。
相互運用性
異なるシステムやサービスの間でデータを交換し、相互に利用できる性質。医療DXでは電子カルテやSaMD、各種医療情報基盤の連携において重要になります。
免責事項
本記事は、SaMD、医療DX、医療機器制度および関連市場について一般的な情報提供を目的として作成したものであり、医療上の助言、診断、治療、薬事・法務・投資その他の専門的助言を提供するものではありません。
SaMDおよび医療機器への該当性、製造販売承認・認証の要否、広告・販売方法、保険適用、医療情報の取扱い等については、製品の使用目的、機能、リスク、運用方法等により個別判断が必要です。
実際の事業化・導入にあたっては、厚生労働省、PMDAその他の関係機関が公表する最新資料をご確認いただき、必要に応じて専門家・関係機関へご相談ください。
記事中の市場規模および将来予測は第三者による民間市場調査に基づくものであり、将来の市場規模、事業成果、投資結果等を保証するものではありません。
また、制度、通知、ガイドライン、サービス内容および企業情報等は今後変更される可能性があります。本記事は2026年9月時点で確認可能な情報をもとに編集しています。




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