「病院・クリニックの資金繰り悪化はなぜ?物価高と消費税の構造」


大幅な診療報酬引き上げが行われたにもかかわらず、全国の病院では資金繰りの悪化や赤字経営が続いています。全日本民医連の調査によると、今年度中に資金繰りが行き詰まるおそれのある病院が17%に上ることが明らかになりました。一見すると手厚い改定に見える裏側で、医療現場を苦しめている構造的な原因とは何なのでしょうか。本記事では、数字と制度の両面からその理由を探り、医療機関が今講じるべき具体的な経営対策を整理します。
98%が「不十分」と回答——最新調査が示す厳しい現実
全日本民医連が公表した「病院経営実態アンケート」によると、2026年度の診療報酬改定を「十分」と評価した病院はわずか2%にとどまり、全体の98%が不十分だと回答しました。また、2025年度に赤字だった病院は全体の54%(国の補助金等を除くと64%)に達し、全体の63%が資金繰りの厳しさを訴えています。さらに、看護師不足が73%、医師不足が62%に達するなど、人手不足と財務の双方が経営を直撃しています。
一方で日本病院会などの調査では一部の経常利益に改善が見られるものの、本業の儲けを示す医業利益の赤字率は55.4%と依然として高く、本業での収支改善には至っていません。
物価高を転嫁できない「控除対象外消費税」の壁
一般的な民間企業や飲食店であれば、仕入価格や光熱費が上がった際に販売価格へ上乗せし、納付する消費税からも仕入時の消費税を差し引く(仕入税額控除)ことができます。
しかし、医療機関の収入源である診療報酬は国が定める公定価格であり、個別の値上げは不可能です。さらに社会保険診療は消費税が非課税であるため、薬品や資材の仕入れ時に支払った10%の消費税を控除できません。この差し引けない「控除対象外消費税」が医療機関の自己負担となり、物価高騰に伴って重いパンチとなって経営に重くのしかかっています。
建設費2倍と借入金返済による「キャッシュフローの圧迫」
損益計算書上の赤字だけでなく、手元の「現金(キャッシュ)」が底を突く危機も迫っています。老朽化した建物の改修や建て替えを計画している病院の約7割が、建設費の高騰(10年前の約2倍)を理由に「現状の資金力では不可能」と回答しています。
また、過去の設備投資に伴う借入金の返済負担が年収入の4%を超える病院も多く、物価高と返済が重なることで、本業で残った僅かな利益や手元資金が急速に削られています。
医療機関が今すぐ実行できる自衛の手立て
制度全体の抜本的見直しには時間がかかるため、病院やクリニックは自院でできる対策を早期に進める必要があります。
・ベースアップ評価料をはじめとする新設・改定加算の確実な届出と算定
・利用可能な物価高騰対策補助金や支援金の申請漏れチェック
・損益管理だけでなく、数か月先を見通す月次資金繰り表の作成と管理
・医薬品・診療材料の購買プロセスの見直しと在庫の最適化
・医療DXの導入によるバックオフィス業務の省力化と人件費上昇の抑制
まとめ:地域の医療基盤を守るために
「大幅増改定」という言葉の印象とは裏腹に、公定価格制度や消費税の構造的課題、設備投資コストの急増が医療経営を強く圧迫しています。地域の医療提供体制を守るためには、制度見直しの議論を注視するとともに、取りこぼしのない加算請求や資金管理の徹底といった自院の経営基盤強化が不可欠です。




コメント