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【2026年最新】社会保険料削減をうたう「マイクロ法人」に国が警告

  • 執筆者の写真: Yuki
    Yuki
  • 7月17日
  • 読了時間: 12分


令和8年3月通知で示された、被保険者資格が認められない境界線


社会保険料の負担を抑える方法として、個人事業とは別に小規模な法人を設立し、法人から役員報酬を受け取る、いわゆる「マイクロ法人」の活用が広く知られるようになりました。

法人の役員として健康保険・厚生年金保険に加入することで、所得や世帯構成によっては、個人事業主として国民健康保険と国民年金に加入する場合よりも負担が軽くなることがあります。

しかし、法人を設立し、役員として登記され、役員報酬を設定していれば、当然に社会保険へ加入できるわけではありません。

2026年3月18日、厚生労働省は「法人の役員である個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いについて」という通知を発出しました。

今回の通知で問題とされたのは、適正に事業を行っている小規模法人そのものではありません。

社会保険料の削減を目的として個人事業主やフリーランスを形式的に法人役員とし、役員報酬を支払う一方で、本人から報酬額を上回る会費などを徴収する事業者や、実質的な経営参加がないにもかかわらず被保険者資格を届け出る仕組みです。(⁠厚生労働省)

今回の通知は、これまでの制度を全面的に変更したものというよりも、法人役員の被保険者資格を判断する基準を明確にし、実態のない社会保険加入を排除する姿勢を示したものと考えられます。

医療機関の院長や経営者のなかにも、個人開業と別法人を併用している方や、複数法人の役員を兼務している方がいます。

今後は、「法人が存在しているか」ではなく、法人役員としてどのような仕事を行い、その対価としてどのように報酬を受け取っているかを、客観的に説明できる体制が重要になります。


1.法人を設立しただけでは社会保険に加入できない


健康保険法と厚生年金保険法では、適用事業所に常態的に使用されている人が、原則として被保険者になります。

法人の代表者や役員も対象になり得ますが、役員であれば無条件に被保険者になるわけではありません。

厚生労働省の通知では、法人役員の被保険者資格について、主に次の2点を基準として、実態を踏まえて総合的に判断するとしています。

  • 法人経営への参画を内容とする、経常的な労務提供があるか

  • その業務の対価として、法人から経常的に報酬が支払われているか

つまり、必要なのは「登記」と「給与明細」だけではありません。

役員が実際に経営判断や業務執行に関与し、その仕事に対応した報酬を受けていることが求められます。(⁠厚生労働省)


2.最大の注意点は、役員報酬を上回る「会費」の支払い


今回の通知で特に問題視されたのが、法人から役員報酬を支払う一方で、役員本人から「会費」「協会費」「システム利用料」などの名目で金銭を徴収する仕組みです。

例えば、法人から月額1万円の役員報酬を受け取っているにもかかわらず、本人が法人へ月額数万円の会費を支払っている場合です。

このような場合、形式上は法人から報酬を受け取っていても、本人から法人へより多くの金銭が戻っています。

厚生労働省は、個人事業主などが役員報酬を上回る会費等を法人へ支払っている場合、実質的に業務の対価に見合った報酬を受けているとはいえず、原則として「業務の対価としての経常的な支払い」があるとは認められないとしています。(⁠厚生労働省)

関連法人への支払いも確認対象になる

会費の支払先を別法人にすれば問題がなくなるわけではありません。

役員になる条件として関連法人への会費支払いが求められている場合や、法人間で資金を移動させているにすぎないと認められる場合には、実質的に同一の仕組みとして判断される可能性があります。

法人を分けたり、支払いの名称を変えたりしても、審査では契約関係や資金の流れを含めた実態が確認されます。(⁠厚生労働省)

重要なのは、支払いの名称ではありません。

その金銭が何の対価なのか、役員就任や社会保険加入と実質的に結び付いていないかが問われます。


3.勉強会への参加やアンケート回答だけでは「経営参画」と認められない


被保険者資格を判断するもう一つのポイントが、役員としての業務実態です。

厚生労働省は、次のような活動について、原則として法人経営への参画を内容とする経常的な労務提供とは認められないとしています。

  • 知識向上を目的としたアンケートへの回答

  • 勉強会や研修への参加

  • 単なる活動報告や情報共有

  • 事業紹介への協力や知人の紹介

  • 求められたときに意見を述べるだけの立場

  • 指揮監督や権限行使を伴わない形式的な会議出席

勉強会へ定期的に参加している、月に一度オンライン会議へ出席している、といった事情だけでは、役員として経営に参画している証明としては不十分になる可能性があります。(⁠厚生労働省)

実態判断で確認される項目

通知では、役員として経常的な労務提供があるかを判断する材料として、次のような事項が挙げられています。

  • 指揮監督する職員や他の役員がいるか

  • 担当業務について決裁権を持っているか

  • 役員間の連絡調整や代表者への報告を行っているか

  • 定期的な会議への出席頻度

  • 会議以外に担当している業務があるか

  • 業務のためにどの程度出勤または稼働しているか

一つの条件だけで機械的に判断されるのではなく、個別具体的な事情を踏まえて総合的に判断されます。(⁠厚生労働省)

したがって、「毎月1回会議に出ればよい」「議事録に名前があればよい」といった一律の基準はありません。


4.問題になるのは「マイクロ法人」ではなく、実態のない被保険者資格


今回の通知を受けて、「マイクロ法人が禁止された」「個人事業と法人を併用できなくなった」と理解するのは正確ではありません。

通知は、マイクロ法人という法律上の制度を廃止したものではなく、法人役員の被保険者資格について従来から必要とされていた要件を、特定の不適切事例を踏まえて明確にしたものです。

適正な事業活動を行い、役員が実際に法人経営へ参画し、その対価として報酬を受け取っているのであれば、小規模法人であることだけを理由に被保険者資格が否定されるわけではありません。

一方で、次のような状態は見直しが必要です。

  • 社会保険へ加入することだけを目的に法人役員となっている

  • 役員報酬が著しく低く、報酬を上回る会費を支払っている

  • 法人独自の事業や売上がほとんどない

  • 役員としての担当業務や権限を説明できない

  • 勉強会や情報交換への参加しか行っていない

  • 契約書、議事録、決裁記録などの証拠が残っていない

  • 法人と個人事業の取引、口座、経費が混在している

重要なのは、節税や保険料削減という結果ではなく、法人としての経済活動と役員としての使用関係が実際に存在するかどうかです。


5.資格が否定された場合、どのような影響があるのか


厚生労働省の通知では、法人に使用されている実態がないことが確認された場合、事業所に資格喪失届を提出させ、被保険者資格を喪失させるよう示しています。

また、事実と異なる資格取得届は、健康保険法第48条および厚生年金保険法第27条に反することになると明記されています。(⁠厚生労働省)

実際にどの時点まで遡って資格が訂正されるか、国民健康保険や国民年金の負担がどのように処理されるかは、個別の事実関係や確認された資格期間によって異なります。

そのため、「必ず数年分の保険料が一括請求される」と一律に断定することはできません。

ただし、過去の資格期間について訂正が行われれば、次のような問題が生じる可能性があります。

  • 国民健康保険への加入手続き

  • 国民年金第1号被保険者への種別変更

  • 保険料の追加負担

  • 既に受けた保険給付の資格関係の整理

  • 法人側の社会保険料や会計処理の修正

  • 税務申告や役員報酬処理との整合性確認

影響は本人だけでなく、法人の経理、給与計算、税務、労務管理にも及ぶ可能性があります。

疑義がある場合には、自己判断で過去の書類を書き換えるのではなく、年金事務所、社会保険労務士、税理士などへ事実関係を示したうえで確認する必要があります。


6.個人事業と法人を併用する場合に確認したいこと


個人事業と法人を併用すること自体が禁止されているわけではありません。

また、両者の事業内容が一部共通していることだけを理由に、直ちに社会保険の被保険者資格が否定されるわけでもありません。

ただし、法人としての独立した事業実態を説明できるよう、契約関係や資金の流れを明確にしておく必要があります。

① 法人としての事業目的と取引を明確にする

法人が何を提供し、誰から売上を得ているのかを明確にします。

法人名義の契約書、請求書、領収書、事業用口座などを整備し、個人事業との取引関係を第三者が確認できる状態にします。

② 役員の担当業務と権限を決める

単に「代表取締役」「理事」と記載するだけではなく、担当業務、決裁権限、報告先、業務頻度を明文化します。

例えば、次のような事項です。

  • 営業方針の決定

  • 契約内容の承認

  • 資金繰りの管理

  • 外注先や従業員への指示

  • 予算の決裁

  • 法人サービスの企画・運営

  • 関係者との連絡調整

③ 役員報酬の根拠を整理する

役員報酬は、株主総会や社員総会等の決議、定款、議事録など、会社法上必要な手続きを踏まえて設定します。

そのうえで、役員が行う業務と報酬の関係を説明できるようにしておくことが大切です。

低額の役員報酬であることだけをもって、直ちに資格が否定されるとは限りません。

ただし、業務実態がほとんどなく、報酬額を上回る会費等を本人が負担している場合は、今回の通知に照らして特に慎重な確認が必要です。

④ 記録を継続的に残す

後から実態を説明するには、日常的な記録が必要です。

  • 株主総会や社員総会の議事録

  • 取締役会や役員会の議事録

  • 稟議書、決裁書

  • 契約書

  • 業務報告書

  • メールやチャットによる指示記録

  • 勤務・稼働状況が分かる記録

  • 法人名義の請求書、帳簿、通帳

  • 役員報酬の支払記録

形式的に過去の日付で書類を作成するのではなく、実際の業務に合わせて継続的に記録することが重要です。


7.複数の法人から役員報酬を受けている場合も注意


医療法人、MS法人、一般法人など、複数の法人で代表者や役員を兼務している経営者も少なくありません。

それぞれの法人で社会保険の被保険者要件を満たす場合には、一つの法人だけで手続きを行えばよいとは限りません。

日本年金機構も、すでに一つの法人で社会保険に加入している事業主が、新たに別法人を設立して役員報酬を受ける場合、もう一方の法人についても資格取得届などの手続きが必要になることを案内しています。(⁠年金ポータル)

複数事業所で被保険者となる場合には、「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を提出し、各事業所から受ける報酬をもとに標準報酬月額や保険料が決定されます。

役員報酬を受け取っているにもかかわらず、一方の法人を社会保険の手続きから除外していないか確認が必要です。


8.医療機関経営者が確認しておきたい関連法人の実態


クリニックや歯科医院では、医療法人とは別に、MS法人や資産管理会社、コンサルティング会社などを設けている場合があります。

関連法人の設立自体に問題があるわけではありません。

しかし、院長や親族が関連法人の役員となって社会保険へ加入している場合には、次の点を確認する必要があります。

  • 関連法人に実際の事業と売上があるか

  • 医療機関との契約内容が具体的か

  • 委託料や管理料に合理的な根拠があるか

  • 役員が実際に経営判断や業務執行を行っているか

  • 報酬が業務の対価として支払われているか

  • 法人への会費や負担金が役員報酬を上回っていないか

  • 法人間の資金移動を適切に説明できるか

  • 税務上の処理と社会保険上の説明に矛盾がないか

税務上は適切に処理されていても、社会保険上の被保険者資格が自動的に認められるとは限りません。

税務、会社法、医療法、社会保険では、それぞれ確認される目的や基準が異なります。

関連法人を運営する場合には、各制度を横断して整合性を確認することが重要です。


9.今回の通知は「法人の存在」ではなく「使用関係」を確認するもの


令和8年3月18日の通知が示したのは、社会保険加入の可否を、法人登記や役員報酬の設定だけで判断しないという姿勢です。

被保険者資格の判断では、次の2点が中心になります。

役員として法人経営に継続的に参画しているか。

その仕事の対価として、法人から経常的に報酬を受けているか。

したがって、対策は「議事録を作ればよい」「役員報酬を少し増やせばよい」という単純なものではありません。

法人の事業、役員の権限、業務内容、報酬、契約、資金の流れを一体として見直す必要があります。


まとめ:社会保険料の削減より、説明できる経営体制を


社会保険料の負担は、個人事業主や小規模事業者にとって重い経営課題です。

しかし、保険料を下げることだけを目的として、実態のない法人役員や被保険者資格を作ることは、将来的に大きなリスクを抱えることになります。

今回の通知によって、少なくとも次の点は明確になりました。

  • 役員登記だけでは被保険者資格は認められない

  • 経営への継続的な参画と労務提供が必要

  • 業務の対価として経常的な報酬を受ける必要がある

  • 報酬を上回る会費等の支払いは重大な確認対象になる

  • 関連法人を介した資金移動も実態で判断される

  • 勉強会や情報交換への参加だけでは経営参画とは認められにくい

  • 実態がなければ被保険者資格を失う可能性がある

経営者が今確認すべきなのは、役員報酬の金額だけではありません。

法人の経営にどのように関わり、どのような責任と権限を持ち、どの業務の対価として報酬を受けているのか。

それを契約書、議事録、決裁記録、業務報告、会計記録などによって、第三者へ説明できる状態にしておくことが必要です。

最後に、次の質問を自社へ投げかけてみてください。

あなたの役員としての業務実態は、第三者が見ても客観的に確認できる状態になっていますか。

説明に迷う部分がある場合には、制度調査が始まってから対応するのではなく、今の段階で社会保険労務士、税理士、弁護士などの専門家を交えて、法人運営と届出内容の整合性を確認することが重要です。


引用・参考資料

  • 厚生労働省「法人の役員である個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いについて」(令和8年3月18日)

  • 保保発0318第1号・年管管発0318第1号

  • 健康保険法第3条、第48条

  • 厚生年金保険法第9条、第27条

  • 日本年金機構「法人の役員である個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いについて」

  • 日本年金機構「A法人事業所で社会保険に加入している事業主が新たにB法人事業所を設立し、役員報酬を受け取ることになりました」


免責事項

本記事は、2026年7月時点で公表されている法令、通知および行政機関の公開情報をもとに、一般的な制度の考え方を解説したものです。個別の被保険者資格、保険料、税務、法人運営等について判断するものではありません。実際の取扱いは、法人の事業内容、役員の業務実態、報酬、契約関係、資金の流れなどにより異なります。具体的な手続きや判断については、管轄の年金事務所、健康保険組合、社会保険労務士、税理士、弁護士等へご相談ください。

特に重要な修正点は、今回の通知が「マイクロ法人全般」や「個人事業と法人の併用」を禁止したものではなく、会費還流型の仕組みや経営実態のない役員加入を対象としている点です。

 
 
 

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