【帝国データバンク調査】患者数が戻っても約6割の病院が赤字?クリニックにも波及する医療経営の「増収貧乏」構造と改善策


「コロナ禍が落ち着き、来院患者数が戻ってきたのに、なぜか手元に利益が残らない……」
そんな違和感を抱えている医療従事者やクリニック経営者の方は少なくないのではないでしょうか。
帝国データバンクが公表した「全国『病院経営』動向調査(2025年度)」によると、患者数の回復によって医業収益(売上)自体は拡大傾向にあるものの、民間病院の57.4%が本業の営業損益で赤字に陥っていることが判明しました。さらに、診療所においても平均営業利益率が0.93%と過去20年で最低の数値を記録しています。
本記事では、この調査データから浮き彫りになった医療機関の構造的リスクを整理し、個人クリニックや診療所が取り組むべき実践的な経営対策について解説します。
■ 2025年度の経営データが示す厳しい現況
今回の調査結果では、民間病院(約800法人)と診療所(約700法人)の双知で深刻な収益性の低下が確認されました。
・民間病院の営業赤字割合:57.4%(前年度の61.7%からは微増改善したものの依然として高水準)
・債務超過に陥っている病院:13.6%(3年連続で割合が増加)
・診療所の営業赤字割合:45.8%
・診療所の平均営業利益率:0.93%(過去20年で最低水準)
※数値は上下10%を除外した刈り込み平均などの算出による
病院の赤字幅は前年よりやや縮小したものの、本業で利益を出せない構造は続いています。また、かつては比較的高い収益性を誇っていた診療所においても利益率が1%を割り込む事態となっており、医療業界全体の経営体力が削られていることが窺えます。
■ なぜ「増収」しても利益が残らないのか?
患者数が持ち直し、売上(医業収益)が増加しているにもかかわらず利益が出ない最大の理由は、医療業界特有の価格決定メカニズムにあります。
一般企業であれば、原材料費や光熱費、人件費が高騰した際、製品やサービスの提供価格を引き上げることでコスト増を吸収できます。しかし、医療機関が提供する保険診療の価格は国が定める「公定価格(診療報酬)」によって固定されています。
そのため、以下のような悪循環が発生しています。
1. 患者増に伴い、医業収益が増加する
2. 同時に、医薬品・医療資材・給食費・光熱費などのコストが大幅上昇
3. 人手不足に伴う採用費・人件費の高騰が重なる
4. 独自の価格転嫁が不可能なため、コスト増がそのまま利益を圧迫する
結果として、「忙しく動いて売上は伸びたのに、利益は残らない」という構造的課題が発生しています。
■ 財務の傷みと地域差:3年連続で増える債務超過
本業での赤字が長引いた結果、資産より負債が上回る「債務超過」の病院割合は13.6%となり、3年連続で拡大しました。債務超過はすぐに即閉院を意味するわけではありませんが、金融機関からの融資条件が厳しくなり、将来の医療機器の買い替えや施設改修、優秀な人材の確保に必要な投資資金が枯渇するリスクを孕んでいます。
また、経営の厳しさには地域的な偏りも見られます。地方都市(山口県75.8%、秋田県72.7%など)では、医療従事者の確保難や過疎化に伴う施設運用の効率低下が直撃し、7割以上の病院が赤字となっています。一方、都市部である東京都(57.5%)や大阪府(50.9%)でも半数以上が赤字であり、地域を問わず厳しい経営環境が広がっています。
特に経営を圧迫しているのは以下の2大要因です。
・人材確保のコスト増:医師・看護師の不足による採用費・人件費の膨張
・施設・設備の老朽化:建て替えやシステム刷新に伴う減価償却費の重荷
■ 2026年度診療報酬改定の影響と今後の見通し
2026年度の診療報酬改定では、改定率が+3.09%(本体部分)と約30年ぶりの高水準となったため、一時的な収益改善が期待されています。しかし、この増額分の多くは医療従事者の賃上げ原資として使われる設計になっており、物価高騰分をすべて補填できるわけではありません。
医療団体の調査では、改定後も「減益が見込まれる」と回答する診療所が約7割に上るなど、制度上のプラス改定だけで手放しに楽観視できる状況ではないのが実情です。
■ クリニック・診療所が取るべき5つの経営改善アプローチ
売上を伸ばすだけでは利益を残せない時代において、診療所やクリニックが自衛のために着手すべきポイントをまとめました。
1. 月次での「営業利益率」の管理
売上高の変動だけに気を取られず、本業でどれだけ利益が残っているか(営業利益率)を毎月チェックする習慣をつけましょう。
2. 費用構造の可視化と見直し
材料費、人件費、委託費、光熱費、減価償却費などの内訳を分析し、どこでコストが膨らんでいるかを特定します。
3. ベースアップ評価料などの加算を確実取得
賃上げに対する手当(ベースアップ評価料など)の届出や実績報告を適切に行い、算定漏れや返還リスクを防ぎます。
4. 計画的な設備投資と資金繰り
医療機器や内装の更新時期をあらかじめ予測し、減価償却が将来の資金繰りに与える影響をシミュレーションしておきます。
5. 業務効率化とDXによる現場負担の軽減
少人数のスタッフでもスムーズに診療が回るよう、予約システムや問診のデジタル化、業務フローの見直しを進め、退職リスクや残業代を抑制します。
■ まとめ:売上増加に安心せず「利益の質」を見直そう
患者数の回復=経営の安定、とは言えない時代を迎えています。物価高や人件費の上昇に対して価格転嫁ができない医療現場だからこそ、感ではなく「数字」に基づいた経営管理が求められます。
自院の収支バランスを見直し、費用構造の適正化や各種加算の取得を進めることが、持続可能な医療提供につながります。
365メディカルでは、診療報酬改定への迅速な対応をはじめ、ベースアップ評価料の申請支援、月次決算データの可視化、医療DXを活用した事務効率化など、クリニックのバックオフィス全般をトータルでサポートしております。「売上はあるのに利益が残らない」「加算の届出やコストの最適化を見直したい」といったお悩みをお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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【用語解説】
・営業損益(営業利益):医療活動(本業)によって得られた損益。収益から医業費用を差し引いて算出。
・営業利益率:医業収益に対する営業利益の割合。本業の稼ぐ力を示す。
・債務超過:負債総額が資産総額を上回り、純資産がマイナスになっている状態。
・公定価格:国が定める標準価格。保険診療においては診療報酬点数によって一元的に決められる。
【参考・引用資料】
・帝国データバンク「全国『病院経営』動向調査(2025年度)」(2026年11月2日発表)
・全国保険医団体連合会「26年度診療報酬改定アンケート」(2026年10月28日)
※本記事は公表情報をもとに一般的な経営分析を行ったものです。実際の届出や財務判断につきましては、最新の厚生労働省通知や専門家(税理士・公認会計士等)にご確認ください。




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